
n-Linksの開発および実証実験の司会進行を務めたアイ・ペアーズ取締役CTOの佐藤直哉
2025年1月18日(土)、弊社が開発中の最新技術『n-Links(エヌリンクス)』システムの実証実験を、弊社のお取引先様や業界関係者様など20余名をご招待してヤマハ銀座スタジオにて実施いたしました(非公開)。
『n-Links』とは
キャラクターコンテンツ制作におけるリアルタイムモーションキャプチャー関連ソリューションです。
現行のリアルタイムモーションキャプチャーで懸念される技術的負荷(機材・人材)を簡易化およびシステムトラブルの可能性を低減することで、システムの安定性と費用の低価格化を実現し、個人・法人を問わず幅広いユーザーにリアルタイム制作のライブコンテンツを発信していただく事を目的としています。
(2025年2月現在、商標登録出願中)
リアルタイムモーションキャプチャーにおける課題とn-Links開発経緯
リアルタイムモーションキャプチャーにおける映像化プロセスには、
・キャプチャー層(アクターの動作を取得)
・リターゲット層(取得した動作データをキャラクターに反映)
・レンダリング層(実際の映像として出力)
以上の3つのレイヤーが存在します。
しかし、この中でリターゲット層に関しては従来のソフトウェアはリアルタイム運用を想定されておらず、かつ要求スペックが高い事に起因し、高負荷によるクラッシュ等でのキャラクターのモーション停止等のトラブルが発生していました。
また、ソフトウェア自体の習熟難度が高い&トラブル対応による現場エンジニアへの技術的・精神的負荷が高くなってしまう事も課題の一つです。
弊社ではリアルタイムモーションキャプチャーを様々な案件で運用してきた経験から、上記で述べたように課題の多いリターゲット層について、リアルタイム運用を前提に「最小限の要求スペック」および「冗長性(安定性)」と「利便性」に焦点を当てた新規ソフトウェア『n-Linksリターゲット』の開発を行い、課題の解決を目指しました。

『n-Linksリターゲット』ソフトウェアの実画面。開発中のためUIは非公開
実証実験の目的
本実証実験においては、効果目標を定量的、定性的に下記の通り設定し、実証実験を行いました。
<定量的目標>
従来の映像化プロセスとn-Linksによる新しい映像化プロセスの2つのシステムにおいて、まず最終出力であるリアルタイムレンダリング映像のクオリティが、少なくとも従来方式と同等か、それ以上であることを目指す。
クオリティを判断する具体的な基準としては、キャラクターの動きに対する違和感(足が3D空間上に立っている印象(接地感)、腕や足の衣装への貫通)や、ソフトウェアの負荷による映像のフレーム飛び(カクツキ)の無さが挙げられる。
また、本事業における重要なファクターであるクロスパスによるトラブル時の挙動についても、従来方式よりも新規方式の方がよりスムースで違和感のないバックアップへの切り替えが行われている評価を得ることが実証実験における目的となる。
<定性的目標>
本事業の主目的である、リターゲットソフトウェアの安定性と利便性について、従来方式と新規方式を比較した際に、システムエラー発生時の対処の難易度や学習コストの低さを、実際にオペレーションするエンジニアの印象として新規方式が従来方式に対して優位性があることを示すことが目的である。
実証実験の内容

リアルタイムモーションキャプチャーにおいての課題説明
本実証実験においては、リターゲットソフトウェアを主軸に置き、下記の内容を中心に従来方式との比較を行いました。
・リアルタイム運用における冗長性
・動作機能面
当日は弊社が従来リアルタイムモーションキャプチャーで使用してきたシステムと、新たに開発したn-Linksシステムの2ラインをセットアップし、出力映像をプロジェクターに投影。来場者様にも分かりやすい形での比較検証を実施いたしました。
また、両システムの機材(パソコン等)の影響で結果に差が出ないよう、同スペックで揃えております。

実証実験におけるシステム構成図
リアルタイム運用における冗長性の実証実験

人為的トラブルは「LANケーブルを抜き、システム間の通信を止める」という形で実施
本項目では、リアルタイムモーションキャプチャー中に人為的に機材トラブルを起こした上で、従来システムとn-Linksシステムのトラブル発生時のバックアップシステムへの切り替えのスムーズさをご覧いただきました。
冗長システムについて
従来弊社では、リターゲット層以降のシステムラインを複数構築(PCなどの物理的な機材含む)し、メインシステムにトラブルが発生した際はバックアップシステムの映像へ手動で切り替える運用を行っておりました。
しかし、これは「実際に出力されるレンダリング映像への影響(キャラクターの動作の停止)をスイッチャー担当が確認した」タイミングで切り替える都合上、対応にはトラブル発生から最低でも数秒間のラグが発生してしまいます。
トラブルが発生するとキャラクターの動作が停止してしまうため、映像を視聴しているお客様の満足度や没入感を下げてしまう原因となり、また出力映像を確認するスイッチャー担当の負担が大きくなってしまうという課題があります。
課題の改善のため、n-Linksでは今までシステムライン毎に別個に送出していたリターゲット情報をすべての系統へ送出しております。(「クロスパスシステム」と呼称)
これによりメインシステムがトラブルにより停止した際にはバックアップシステムの送出ラインに自動で切り替わり、メインシステムのレンダリング層がリターゲット情報を引き続き受け取れるため、スイッチャー担当が出力映像を切り替える必要がなく、リアルタイムコンテンツで致命的となるキャラクターの動作停止の時間を極限まで低減させております。
実際にn-Linksシステム(上)と従来システム(下)のリターゲットソフトウェアの画面(左)およびレンダリング映像(右)を1画面で表示し、トラブル発生時の影響について来場者の皆様がご覧になった感想をアンケートに記入いただきました。
アンケートの集計結果
「トラブル発生に気付いたか」という設問では、従来システム(既存のソフトウェア)ではほとんどの方がトラブル発生に気付きましたが、n-Linksシステム(新規ソフトウェア)では、トラブルに気付いた方の人数が約半分に減少いたしました。
また「トラブル発生時に違和感や不快感を感じたか」という設問では下記のような集計結果となりました。

従来システムのアンケート結果

n-Linksシステムのアンケート結果
トラブル発生の際、従来システムでは半数近い方が何らかの違和感や不快感を感じておりますが、n-Linksシステムではほぼすべての方が違和感や不快感を「あまり感じなかった」「全く感じなかった」と回答いただきました。
上記のアンケート結果から、n-Linksのクロスパスシステムが冗長システムとして有効に機能している事がうかがえます。
動作機能面の実証実験
冗長性の実証実験と同様の画面形式で、実際のキャラクターの動作について従来システムとn-Linksシステムの比較を行い、アンケートを記入いただきました。
アンケートの集計結果
全体的なキャラクターの動作の滑らかさの印象について回答いただきました。

回答は3を平均とし、1~2が従来システムの支持、4~5がn-Linksシステムの支持
この設問についてはn-Linksシステムが圧倒的な支持を得ました。
要因として大きいのはn-Linksリターゲットソフトウェアの負荷が低く、パソコンの処理能力を圧迫しないため、いわゆる「処理落ち」が従来システムと比較し少ない事が挙げられます。
また、キャラクターの接地感などの部分についてもアンケートでご回答いただきました。

赤系統が従来システムの支持、青系統がn-Linksシステムの支持
こちらも全体的にn-Linksシステムが支持を得ています。
接地感や貫通、自然さの項目については、n-Linksリターゲットソフトウェア上に「キャラクターの位置」や「腕の開き具合」などの調整パラメーターを実装しており、モーション元となるアクターの体格やキャラクターの服装等に合わせて、エンジニアが現場で簡単にキャラクターへ調整が加えられるように工夫されております。
結果としてキャラクターの実在感や魅力をより引き出す事が可能となっております。
エンジニア視点でのシステムへの所感
実際に従来システムとn-Linksシステムに触れているエンジニアにもアンケートを実施し、それぞれの優位性や改善点を回答いただきました。(掲載している回答は一部です)
Q1.対処のし易さ:エラーが発生した際の対処がどの程度簡単に行えたか。障害発生時に必要なステップ数や迅速性、直感的な操作が可能だったか
・従来システムの場合
通信障害のようなケースではIPアドレスの再入力が考えられるが、従来型のシステムではモーキャプデータの受信、ゲームエンジンへの送信は各プラグインに依存しているため、あらゆるタブを行き来する必要がありシステムに対して、ある程度の理解があるエンジニアでないと対応が難しい
・n-Linksシステムの場合
今回のような通信障害であればIPアドレスの再入力などで事足りるが、現場の仕様、エラーの内容によってはその限りではない。しかしそもそもの最大工数が少ないので、最悪プロジェクトの作り直しまで視野に入れた場合でも作業負担は比較的軽い
Q2.操作の満足度:エラー発生時のフィードバックが適切かどうか、また操作中に必要な労力がどれほどだったか
・従来システムの場合
通信障害の箇所によるが、受信しているモーションデータが途切れた場合にはキャラクターの動きが止まるので異変には比較的気づきやすい。しかしゲームエンジンへの送信に問題がある場合には、プラグインのタブを注視していない限りシステムの異変に気づきにくい
・n-Linksシステムの場合
通信不良の場合従来型のシステムであればタブ内のアイコンが緑から赤に点灯するといった視覚的変化が見て取れたが、本システムには特段そのような変化がないのでゲームエンジン側への送信不良は気づきにくいといえる
Q3.システムの安定性:障害発生後のシステム回復の迅速さと効率性について
・従来システムの場合
リターゲット設定(骨階層のマッチングや姿勢の最適化など)が保存されたファイルがあれば迅速なシステムの復旧が望める。ipアドレス等の再入力等は必要となる場合が多い
・n-Linksシステムの場合
クロスパスシステムで視聴者側が異変を感じにくいというのは大変な利点である、また同時にエンジニア側がシステムを切り替える必要がないというのも障害の予測が困難な現場運用にあたっては評価が高い
Q4.全体的なユーザー体験:システムを使用した際の操作の直感性やストレスの少なさ、システムに対する信頼感について
・従来システムの場合
PCに高負荷がかかりがちなリアルタイム案件では、ソフトウェア自体の安定性に欠ける。クラッシュした際のプロジェクトデータが破損し、開けないこともままある
・n-Linksシステムの場合
UIが限りなくシンプルでよい。設定が入れ子にならず全て目視できる点は現場向きである。またタブレット端末やスマホでも操作できる軽量さは現場運用時の安心感につながり、エンジニアの負担軽減になると考える
Q5.その他、業務上抱えている不満点や難易度が高いと感じる操作などについて
・従来システムの場合
リターゲットシステムに加えてDCCツールとしての機能を併せ持つため、UIが煩雑なように思う。設定項目が入れ子のようになっており、目的の項目がどこにあるのか探しづらい
・n-Linksシステムの場合
コンストレイントの機能がないことが気になった。キャラクターのリアルタイム案件では物を持たせたいという要望は比較的多いので、最低でも回転・位置に対するコンストレイントは欲しい
n-Linksシステム関連情報
実証実験の最後にn-Linksシステムに関しての情報をいくつかご案内いたしました。
スマートフォン、タブレット操作可能

調整項目等はPC版と同等
追加開発予定ソフトウェア

表情設定用ソフトウェアなども開発し、トータルソリューションを目指します
実証実験総括
業界関係者を中心に集めた実証実験を行い、従来方式に対して新規方式を強く支持する成果を得られました。
特にシステムエラー時のクロスパスシステムによる自動的なバックアップとの切り替えについては、業界のプロフェッショナルにおいても特別に注意しなければ気付けないほどのスムーズなバックアップとの切り替え結果を提示できており、リターゲットの精度としても、操作性の観点からも、従来方式以上の効果を新規システムが発揮しているとの評価でした。
今回の実証実験の結果およびフィードバックを基により良いソフトウェア・ソリューションの開発を続け、国内の大小に関わらない3Dコンテンツクリエイターに寄与する技術を提供することを目指すとともに、世界で唯一のベストソリューションを提供することで、業界全体への波及を目標としております。
『n-Links』の商品化に関しては、まずはソリューションとしての提供を本年2025年下半期に予定しており、本格的なソフトウェアとしての展開を来年2026年以降に検討して参ります。
VTuber3Dライブ向けソリューションサービス『AURA』提供中
『n-Links』システムの一般公開に先立ち、同システムの基幹技術を活用した3Dモデル配信特化型バーチャルライブ制作+配信サービス『AURA(アウラ)』を2024年12月30日(月)より先行リリースしております。
『AURA』は3Dモデルを使用したリアルタイムモーションキャプチャー技術によるライブ制作と配信を実施するためのVTuber向けサービスです。
当社が独自に開発したリターゲットソフトウェアとモーションキャプチャー・ハンドキャプチャーを連携し、アクターとなる人物の動作をすべてリアルタイムで3Dモデルに反映いたします。また、表情についても配信オペレーターがゲームパッドを介してリアルタイムでのコントロールが可能です。
本サービスのご利用により、VTuberライブイベントなどのリアルタイムコンテンツの制作及び配信(事前収録にも対応しています)をより簡易・低価格で実施いただけます。
詳細はサービスページをご覧ください。
サービスページ:https://ip-vp.jp/service/aura/
プレスリリース:https://i-pairs.co.jp/12927/